競争、努力、仕事、世間体…。
幼い頃より知らず知らずのうちに「一生懸命」を強要されてきた日本人の私たち。
そんな日本で韓国人作家たちによるエッセイが数年前より人気が高まっています。
競争社会や世間体に疑問を持ち、本来の自己幸福に目を向ける韓国人作家たちによるエッセイ。
その中でも韓国人作家ハ・ワンさんによる著書『あやうく一生懸命生きるところだった』は、「一生懸命生きる」日本人と真逆のスローガンをタイトルに掲げ、日本でも一躍人気の著書となりました。
今回の記事ではイラストレーターで作家でもあるハ・ワンさんの魅力をご紹介します。
もくじ
韓国人作家ハ・ワンさんについて

本業はイラストレーターの作家ハ・ワンさん。
学生の頃より努力家だった彼は、3浪して韓国トップの美術系大学、弘益(ホンデ)大学へ入学しました。
大学ではバイトに明け暮れ、学業も就職活動も振るわずの学生時代を過ごすことに。
大学卒業後は、生きていくために会社員として働きながら副業としてイラストレーターの仕事を続けます。
Web上でイラストと一緒に書いていたエッセイが韓国で注目され、本の出版へ。
フリーランスとして安定した生活が送れるかは不確かでしたが、40歳を目前にして会社員を辞めてしまいます。
彼の1作目のエッセイ『あやうく一生懸命生きるところだった』は、韓国で25万部を超え、その後日本でも大人気の著書となりました。
本業はイラストレーターのハ・ワンさん。
実は絵本の絵も手がけています。
そんな彼のイラストレーター兼作家としての活動は本記事の後の方で紹介しています。
日本人も共感できる言葉の数々

彼の著書『あやうく一生懸命生きるところだった』は、韓国でベストセラーになり、日本でも人気のエッセイです。
競争、努力、仕事、世間体。
本著では、ハ・ワンさんが掲げる「疑問」や「葛藤」がゆるいイラストとともに紹介されており、そのほとんどが日本人も共感できる内容になっています。
この章では、多くの日本人が共感した『あやうく一生懸命生きるところだった』から名言を抜粋して紹介します。
“何のために頑張っているんだっけ?”
頑張って、ベストを尽くし、我慢を続ける。
果たしてそれで幸せになれるのか?
幼い頃より、「努力」や「我慢」を美徳として教わる韓国と日本では、その生き方には似ている部分があります。
たくさん勉強して、努力してきたはずなのに、生活は豊かにならない。
何の疑いもなく「頑張る」ことを続けてきた葛藤が表現されています。
“「人生マニュアル」を捨てて自分らしく”
良い大学に通って、良い企業に就職して、結婚し、子供を産み、一軒家を持つ。
いつの間にか私たちの中に存在している「人生マニュアル」。
もし「人生マニュアル」通りに行かないと、日本でも「失敗した」というレッテルを貼られてしまいます。
そんな「人生マニュアル」に沿って生きていくため、必死にもがいている日本人も多いのではないでしょうか?
ハ・ワンさんは、「人生マニュアル」に対する疑問と、自らの経験と「実験」を通して、自分なりの「幸せ」について紹介しています。
“人生に「正解」を求めすぎたばっかりに”
自分の選択が未来を変えるとを信じ、最善の選択、後悔のない選択をしなくちゃと慎重になる。
そんな人も多いはず。
しかし、人生は自分の思い通りにならないどころか、理想を叶えるために行った選択自体も無意味になる瞬間があります。
ハ・ワンさんは、「すべてが自分の選択にゆだねられると考えるのは実に傲慢だ」と述べています。
どんなに「正解」を追い求めても、自分の力ではどうにもできない部分が多い人生。
人生に対する責任感によって自分自身に向けられる「プレッシャー」から抜け出すヒントが得られるかもしれません。
“その「生きづらさ」はあなたのせいじゃない”
子どもの頃から私たちは大人たちの「小言」に振り回されてきました。
大きな夢を見れば「夢みたいなこと言ってないで、勉強しなさい!」
そう言われて育ってきた人も多いでしょう。
子どもたちは夢を見る機会さえ奪われたまま、勉強にかかりきりにならなければいけません。
そして、そういう生き方を提示してくる大人たち。
ハ・ワンさんは勉強自体を否定しているわけではなく、韓国の教育システムがいまだに「良い大学に行くための教育」「良い会社に入るための教育」であることを問題視しています。
また、社会全体も、良い会社に入るためのスペックを高めておく必要性を強いる流れになっていることも言及しています。
ハ・ワンさんが問題視している韓国の教育や社会の雰囲気は、私たち日本人のそれと通ずるものがあるかもしれません。
しかも「良い会社に入るため」必死で勉強したのに、社会人になったら雇用不安と過度の業務に苦痛を感じる人もいます。
ハ・ワンさんがイラストと共に投げかける「言葉」は私たち日本人に突き刺さることも多いはず。
『あやうく一生懸命生きるところだった』ハワンさんインタビュー 韓国で25万部、東方神起メンバーも読んだ「努力しないススメ」
『あやうく一生懸命生きるところだった』の著者がコロナ禍で見直す、自分だけの「小さくても確かな幸せ」
読書好きで教養がある

ハ・ワンさんのエッセイに厚みを作っているのは、彼がこれまでに培ってきた「教養」です。
また、自分が頭の中で考えていることを書くだけではなく、著名人のインタビューや、好きなテレビドラマからの「引用」も、彼のエッセイのスパイスとなっています。
今までに読んだ本からの考察もあり、『あやうく一生懸命生きるところだった』には村上春樹の作品も登場します。
例えば、村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』の中に出てくる、太平洋のど真ん中で遭難した男女の話を参考に彼なりの考察を展開しています。
『風の歌を聴け』の参考部分
太平洋のど真ん中で遭難中に知り合った男女。
海に浮かんだままビールを飲みながら夜通し話を続けたのち、女は当てもない島を目指して泳ぎ始め、男はそのまま同じ場所でビールを飲み続けた。
女は2日と2晩泳ぎ続けて島にたどり着き、男は二日酔いのまま飛行機に救助される。
必死に泳ぎ続けた女も、その場に留まり何もせずビールを飲み続けた男も助かった。
村上春樹の作品のくだりから、
「必死に努力したからといって、必ずしも見返りがあるとは限らない。」
ということと
「必死にやらなかったからといって、見返りがないわけでもない。」
といった、ハ・ワンさんなりの考察が添えられています。
ハ・ワンさんのエッセイは、自分が考えたことをただただ書き連ねているだけではなく、時折著名人の言葉や引用を含ませることで、エッセイに厚みが生まれ、読み手が理解しやすい文体になっています。
実は「努力の人」ハ・ワンさんの活動

ハ・ワンさんが売れっ子になる以前から作品を掲載しているのは、Instagramとbrunchという韓国のブログサービスのようです。
今でこそ「毎日遊んで暮らしている」と本で述べているハ・ワンさんですが、イラストレーターとして生きていくために努力してきたことも事実。
この章では、Web上での活動から徐々に人気となり出版にまで至ったハ・ワンさんの活動について紹介します。
Instagramでの投稿

ハ・ワンさんが自身のイラスト作品等を投稿しているInstagramです。
時折、立ち寄った飲食店の写真や好きな本なども投稿されており、彼の人柄が少しだけ伺えます。
一番古い投稿は2017年3月14日。
韓国のブログサービスbrunchで自身のイラストとエッセイの投稿を開始した内容が紹介されています。
Instagramでの投稿を開始した2017年は、ほぼ毎日のようにイラストを投稿し、brunchへの流入へ繋げていたようです。
それから約1年後の2018年4月には『あやうく一生懸命生きるところだった』が販売。
2018年4月以降の投稿は、メディア出演をしたことなども投稿され、彼が人気作家となっていく様子がわかります。
brunchでのイラスト&エッセイ投稿

韓国のIT企業・カカオが運営するブログサービスのbrunchでも作品投稿を行なっていました。
brunchは日本のnoteのようなブログサービス。
note同様、デザイン性に優れ、様々なジャンルの文章作品が日々投稿されています。
noteと違うところは、誰でも投稿できるという訳ではなく、作家として審査に通った人のみ自身の作品を投稿できるというところです。
ハ・ワンさんはこのbrunchでイラストと共にエッセイを連載し、人気作家の1人となりました。

現在は投稿がストップしているようですが、1作目の『あやうく一生懸命生きるところだった』と、2作目『今日も言い訳しながら生きてます』の内容がまとめられています。
※2作目の『今日も言い訳しながら生きてます』については最後の章で紹介します。
>> ハ・ワン brunch
聞くコンテンツaudio clipでの連載

NAVERが運営している音声コンテンツを楽しめるアプリ audio clip。
教養・朗読・ニュースといった様々なジャンルの音声コンテンツがあり、日本では韓国語を勉強する人に利用されることがあるようです。
心地よいBGMに乗せてハ・ワンさんのコンテンツを音声で楽しむことができます。
本業のイラスト
日本ではエッセイが一躍人気となりましたが、ハ・ワンさんの本業はイラストレーターです。
マグカップやカレンダーなど、ハ・ワンさんのイラストが入ったグッズが販売されているほか、絵本の絵を担当したりしています。
日本でも出版された『トゲトゲくんは ね、』では、ハ・ワンさんらしい優しいタッチだけど深みがある絵で物語が表現されています。
エッセイ2作目もおすすめ
実は2作目となるエッセイ『今日も言い訳しながら生きてます』が、すでに日本でも出版されています。
この本では『あやうく一生懸命生きるところだった』の出版を経て、世の中の評価を受けたハ・ワンさんの心境が綴られています。
もちろんハ・ワンさんの作品には好評価が多いのですが、やはり批判めいた言動に傷つけられ少し元気がない彼の様子が垣間見えます。
前作同様、社会に対する「疑問」と「葛藤」を投げかけ、私たち日本人も共感できる内容が書かれており、自己啓発本としての役割も果たしそうです。
おそらくエッセイ1作目のヒットで富と名声を得たであろうハ・ワンさんですが、2作目でも世の中の常識を疑い、社会の競争から距離を置いて自分らしい人生を過ごしている様子をイラストと共に描いています。
1作目で、今までの自分の生き方を見直すきっかけとなった人には、2作目もおすすめです。